氷上郡天台宗寺院会報
(どうしん)
・・・第5号・・・



「みんなで生きている」

◆慈悲の仏さま◆
 皆さんは今までに、色々な仏様を見られたと思います。仏様の姿や形、顔の表情、飾り物、持ち物、印契(手の結び方)、眷属等で衆生済度の誓願の働き、役目を知ることができます。また近寄り難い姿や表情の仏様もあれば、何時までも拝んでいたい仏様など様々であります。しかし、すべての仏様にいえることは、智慧と慈悲とを必ず備えておられるということです。例えば如来、菩薩のほとんどにある白毫(眉間にある光を放つ渦巻き状の毛)と肉髻(頭にある拳のようなこぶ)がそれであります。白毫は白色で慈悲、肉髻は赤で智慧を象徴しています。
 特に慈悲とは「抜苦与楽」といわれ、苦しみを取り除き、幸せを与えて下さることをいいます。
 「慈」とは、サンスクリット語でミトラとかマイトリーといい、訳すと、相手のことを思い、その立場に立って考えてあげること。「悲」とは、カルナーといって同情・共感・哀れみと訳し、どちらも相手のことを思うことなのです。

◆思いやりのこころ◆
 慈悲とは、私たちの生活の中で、相手の方は困っていないか、苦しんでいないか、悩み事を持っていないかなど、相手を思う働きなのです。また自分からも迷惑をかけていないか、失礼なことはしていないかなどと自己反省するのも相手を思う心です。
 さらに、相手が人間であれば話し合い等により善処することができますが、そうでない相手にはどうでしょうか。私たちを取り巻く自然環境、動植物に対してです。文句も苦情も言うことができない物に対して、本当に相手を思いやっているかということです。

 水や大地、空気の汚染、絶滅やその危機にさらされている動植物など、人間の身勝手な行動のため、環境破壊は進んでいます。私たちは大自然の一部として生かされているということを忘れかけています。
 今こそ、仏様の白毫から放たれている慈悲の光を感じ取り、すべてのものに思いやりを持ちましょう。それが仏教徒としての大切な道なのです。


  


  「寺門興隆 安穏寺で慶びの盛儀」

◆第十七世法燈継承晋山式を挙行◆

  春日町稲塚の安穏寺では、第十七世住職の法燈継承晋山式が執り行われた。
 最初に、稲塚交流センターから、ご詠歌衆の「来迎会和讃」がお唱えされる中、可愛らしいお稚児さんを先頭に行列が始まった。新住職を新たに安穏寺に迎え、初めて案内するかのように、ゆっくりと和やかに行われた。

 一方、本堂では前住職旭秀海師の退山式が行われ、総本山特使草別碩善兵庫教区宗務所長より解任辞令が伝達された。次に永年にわたり住職を務めてきた思いを込めて、前住職の導師で厳粛にお経が唱えられ、久下政雄総代よりは、労をねぎらう御礼の挨拶が述べれた。この後、前住職より退山の挨拶があり、五十年間住職をまっとうできた感謝の気持ちと、肩の荷が下りた安堵の心情が語られた。

 続いて、旭成海師の晋山式が厳かに行われた。伝教大師様は「あきらけく、後の仏の御世までも、光伝えよ、
法の灯」とのご聖句を残されたが、この晋山式とは、まさに法の灯を今日まで伝えている証しなのである。よって、正式には「法燈継承晋山式」というのである。

 「浄邦和讃」がお唱えされる中、式衆(法要に参加する僧)の後に新住職が続かれ、散華をしながら来賓や檀信徒が見守る堂内へ。まず、総本山特使の草別所長より住職辞令が伝達。前住職より法具を新住職に受け継ぐ法燈継承の儀が行われ、晋山をご本尊に報告する法要が厳かに営まれていった。

 続いて式典では、波多野乙彦実行委員長による期待と励ましの気持ちを込めた慶讃の辞と来賓の祝辞があり、これを受けて新住職は「忘己利他(己を忘れて他を利する)の心で精進して行きたい」と誓詞(誓いの言葉)を力強く述べられた。

 最後に、 「秋の田の かりそめ  ならぬ人心 善根を  つむ 稲塚の寺」と、安穏寺のご詠歌の中法要が終了し、檀中の安穏と仏法の興隆を誓った一日であった。


  
 

 仏教行事の解説 ―4― 「 除夜の鐘」

 NHK紅白歌合戦が終わると「ゆく年くる年」が放映されます。除夜の鐘のリレー中継です。聞くところによりますと、大本山級のお寺の中継は五年で一巡するそうです。 ところで、日本の三大梵鐘をご存知ですか。京都の知恩院、奈良の東大寺、そして京都東山の方広寺の鐘だそうです。中でも、知恩院の鐘は日本一、世界第二位の大きさを誇り、十七人のお坊さんによって撞かれます。

 なぜ、「除夜の鐘」と言うのでしょうか。実は大晦日を除日と言います。その晩だから除夜という訳です。除夜には鐘を一〇八回鳴らし、一〇八の煩悩を消しながら年を越します。

 一〇八の煩悩には色々な数え方があります。一年を過ごすには四苦八苦するので、四苦の四×九=三六と八苦の八×九=七二の合計で一〇八。三つの世界で起こる六つの煩悩と六識との組み合わせで、三×六×六=一〇八。一年は十二ケ月、二十四節気、七十二候で、十二+二十四+七十二=一〇八。と言うようにいろいろな考え方があります。もっと細かくわけて八万四千の煩悩とする考えもあります。

 いずれにしても自分だけのご利益を願うような独り善がりの考えを改めて周りの人々に感謝や思いやりの心で新年を迎えられるように準備をするのが除夜の鐘です。
 

  
 

  山寺説法    D   「あたりまえ?」   天台宗布教師 大 瀧 孝 雄

 飛行機から下を見ると、家は小さく見えるが、人間の姿は小さ過ぎて見えない。

 人間て何とちっぽけなものだと思う。人間は自分のことや自分のまわりのことだけ見えて、外の世界がわからない。また自分中心で他人のことまで余り考えられない。飛行機からは何にも見えない。 地上にも人間の目に見えない小さな生き物がたくさんいる。しかし、それぞれが大事な存在であり、お互いに皆つながっている。

 自分自身がかけがえのない存在だと同時に、他人や他の世界が大事だとわからないといけない。そんなことやらで、今の世は末世的様相を示し、それをあたりまえと思うか仕方がないと思っている面がかなりある。「井の中のかわず…」と昔の人が言ったが、昔の人の言葉は現代に通じるものが多くある。

  お釈迦さまは現在の世を見て、何と思われるだろうか。みんなと一緒に宗教者も考え合っていかなければいけないと思う。 あたりまえで、どっちでもよいことはないと思う。


  



 我が家は天台宗 第5話 「遣唐船で入唐」 

 
こうして比叡山に籠もられた最澄さまは、華厳・天台の教典にひたすら接する毎日を送られ、厳しい自然環境と貧窮の中で十年近く過ごされます。

 その間にも、名は中央に知れ渡るようになり、三十歳の時には宮中に赴き、天皇の護持に、また高雄山神護寺では法華経講会の講師にと高い評価を受けられるようになりました。
 そして、最澄さまにとっても、日本仏教界にとっても大きな発展の契機となったのが、その頃計画されていた「遣唐船」の派遣です。

 この計画を耳にされた最澄さまは、早速留学を願い出られ、朝廷から「環学生」という特権的身分を与えられて、延暦二十三年(八〇四年)、肥前の田浦港を出航されました。

 唐での最澄さまの活動は、実に精力的でした。長安に向かう一行と別れて台州に入り、天台山の巡礼を終え、竜興寺で道邃師から天台の根本の教えと戒律を授かり、仏瀧寺で行満師から天台の奥義を伝授され、天台の教典二百四十巻の書写を許されました。

 さらに翌年、竜興寺の順暁師から密教の奥義を受け、密教の経典百十五巻や法具を授けられました。


  

 寺院さんぽ ―D― 大炊山  蓮華寺
 
氷上郡春日町多利717番地
  速 水 亘 雄 住職

 当寺は多利天神山の山麓にあり、真正面に黒井城趾を眺める見晴らしの良いお寺で、ご詠歌にも詠われる
「登りきて きざはしに立ち 眺むれば ひかりあまねき 蓮華寺のさと」
の風情を味わうことができる。平成七年に本堂・庫裡を一新。真新しい本堂には、本尊の釈迦牟尼如来を始め、多くの尊像をお祀りし、境内には薬師観音堂、弁天堂、庚申堂、鐘楼等があり、更に由緒名高い「歯痛地蔵」や「水子子育地蔵」などもある。
 平素は、毎月の写経会やご詠歌会の活動も盛んである。


   

 仏教Q&A B   

 Q.お経を読む時に木魚を使いますが、どうして「魚」をたたくのですか?。

 A.確かに動物をたたくなんて不思議ですね。でも、ちゃんと理由があるのです。
 魚を想い浮かべて下さい。魚が瞬きをする所をご覧になったことがありますか?。「ある」と答えられた方は、きっと思い違いです。魚には瞼が無いので、瞬きも目をつぶることもありません。

 木魚の原型は、お寺の生活の中で時間限守の合図として鳴らした魚の形の魚鼓という道具です。魚が昼も夜も目覚めているように見えることから不眠勉学を諭し、或いは怠け心を戒めたのです。
これがやがて読経の時に使う木魚に進化したと言われています。


   


 編集後記

 師走となりました。気がつけば、今年も残りわずかです。
 大掃除や迎春準備など昔に比べて簡略化されてきたとはいえ、人手と時間のかかる重労働です。あれもこれもと気ばかり焦って、時間だけが過ぎていきます。

 毎年、この時期になると、大掃除の時に師僧が「片道の仕事はするな。荷物を一つ運ぶ時にも運んだ先に仕事はないか、持って帰る物がないかを考えながら仕事をすれば同じ時間で二つの仕事ができる」と言っていたのを思い出します。

 働くとは、側(はた)が楽になること。今年の年末は、家族みんなが力を合わせて「往復の仕事」で頑張れば、隣の家より早くお正月が来るかも…?。


  


 お知らせ

 このたび兵庫教区の役員改選に伴い、この会報の発行責任者でもある第六部の主事が、十月一日付で濟納寺の高見智秀住職から神池寺の荒樋榮晋住職に代りました。前任の御労苦をねぎらうと共に、新体制へのご協力をお願いします。


 広告 1 仏教徒としての生活を 檀信徒総授戒に参加しましょう

 天台宗では、開宗1200年を迎えて檀信徒総授戒を奨励しています。仏教徒としての生活の基本は、悪いことはせず、善い行いに努め、常に自らの心を磨いて行くことです。こうした生き方をするための指針が戒であり、誓いを立てる儀式が授戒会です。
 氷上郡内でも授戒会を催す予定です。期日や会場など詳細が決まりましたら、各寺院よりご案内申し上げます。是非共ご参加下さい。

 広告 2 天台宗全国一斉托鉢を実施しました
 天台宗では、毎年12月1日を「全国一斉托鉢の日」と定め、「地球へ慈愛(あい)の灯を!」をスローガンに掲げて募金活動を展開しています。氷上郡の天台宗寺院でも11月29日に山南町・常勝寺の檀信徒を対象に、各寺院総代様と共に実施。寄せられた浄財は山南町の社会福祉協議会と天台宗・一隅を照らす運動総本部の地球救援募金事務局に寄託致しましたことをご報告し、御礼に代えさせていただきます。